北欧古物専

デンマークで椅子張り職人の学校に通っています

現場研修(Læreplads)11 憧れの椅子

10日間のイースター休暇が終わり、今週からまた工房で元気に働いています。

今週は、待ちに待った憧れの椅子の修理に取り掛かりました。

 

デンマークで椅子張り職人になるからには、いつかは張り替えてみたいと思っていた椅子の一つ、ウェグナーデザインのベアチェアです。

デンマークでは、Bamsestol(バムサストール)と呼ばれていて、日本語に訳すとテディベアチェアという意味になります。

 

日本で一脚数百万円するこの椅子は、デンマークでも同じくらい、またはそれ以上の値段がつく高級家具です。

 

ティナの工房は、デザイナーチェア専門の張替工房ではないので、ベアチェアの張替えなんて早々ないだろうと思っていたのですが、思いのほか早くこの椅子に関わることが出来て、とても嬉しいです。

 

しかも、違うお客さんからの依頼が重なって、3~4脚ほど同時に工房に来ることになるようです。

いつもは何も気にせずどこにでも家具を置いているティナも、これは盗まれるといけないから隠さなくちゃ、と戸締りに慎重になっています。

 

1脚目のベアチェアは、傷んだ部分の補修のみです。

張地の張替はティナが行いますが、私は座面のテープの張替をさせてもらいました。

 

日本でデンマーク家具の販売の仕事をしていたので、ベアチェアを販売したこともありますし、この椅子についてそれなりに知っているつもりでしたが、自分の手で家具を修理すると、気づくことがたくさんありました。

 

座面の木材はかなり硬く良質なビーチ材を贅沢に使用していて、デンマークの他の一般的な椅子に比べると、とても細かく丁寧なデザインと作りになっています。

 

座面枠の側面に開けられた穴のおかげで、どこから見ても座面のテープの納まりがキレイに見えるように工夫されています。

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見えない部分にも良質な木材が贅沢に使われていて、

テープを通す穴まで丁寧に美しく加工されています。

 

古い座面のテープは釘で留められていて、このテープが制作された当時から1回も張替えられていないことが分かります。

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外した釘の分しか釘穴が開いていないので、1回も剥がされていないことが分かります。

ただ知識を頭に入れていただけの家具販売のときと比べて、自分の手で家具を修理するのは、何て面白いんだろうと思いました。

デザイナーと職人の知恵と工夫、いろいろな葛藤など、今まで見えなかったもの、感じられなかったことがたくさん思い浮かびます。

 

まだまだ修行中の身ですが、これからもどんな発見があるのか、とても楽しみです。

 

ベアチェアについて、デンマーク語のホームページで少し面白い話を見つけたので、ご紹介します。

https://loppefund.wordpress.com/2020/04/30/hvilken-bamsestol-sidder-du-i/

 

このページでは、ベアチェアがどんなポーズでも座り心地が良くて、すぐに人気になったことが、イラストで紹介されていました。

 

また、1957年の販売カタログには、デンマークで最も高価で素晴らしい椅子として、922クローナ(日本円で約17500円)で販売されたけど、高すぎて売れなかったようで、7年後の1964年のカタログでは、似たようなデザインの椅子が半額くらいの値段で掲載されていたこと、なども紹介されています。

 

その他には、スウェーデンで明らかにベアチェアの盗作のような椅子が販売されていて、当時デンマークでベアチェアを制作していたA.P.Stolen工房が訴えたけど、スウェーデンとデンマークのデザイン権に関する法律が異なっていたために時間がかかり、数年後にやっとA.P.Stolen工房が勝訴したこと、なども掲載されていました。

 

せっかくデンマーク語を勉強したので、これからはもう少しデンマークの家具の歴史やデザインについて、デンマーク語で調べていこうかな、と思います。

 

何か面白いことが分かれば、またご紹介したいと思います。