北欧古物専

デンマークで椅子張り職人の学校に通っています

現場研修(Læreplads)18 大切な家具たち

朝晩すっかり冷え込むようになったデンマークでは、霧の日が増えて、日の出の時間がどんどん遅くなってきました。

秋が、もうすぐそこまで来ています。

サンサンと輝く太陽と青空、さわやかな空気が最高に気持ち良い夏が終わり、寒くて暗い冬が近づいているのかと思うと、少しさみしい気持ちになります。

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霧の朝、工房に着くといつの間にか太陽がとても低くなっていました。

 

今週はティナの工房に、またまたベアチェアがやってきました!

私は古い張地の剥がし作業と座面の布テープの張替、木部のオイルメンテナンスを担当しました。

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座面のテープをキレイに張れて、満足です。

アームの先の木部を、ティナがNegl(ツメの意味)と呼んでいたので、少し驚きました。

日本でもこの部分を「ツメ」と呼んでいて、独特な呼び方だなと思っていたのですが、デンマークから来たものだったのですね。

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オーク材の足と爪

ティナの工房はデザイナー家具専門の張替工房ではないのですが、デンマークデザイナーの家具の張替依頼が、結構な頻度でやってきます。

 

中でも多いのは、ウェグナーとモーエンセンの家具です。

一般市民に良質な家具を!と奮闘した二人の偉大なデザイナーの家具が、70年経った今でもデンマーク国民に愛されていることが、とても嬉しいです。

 

日本では北欧デザイナー家具として特別な存在感を放つ椅子も、本国では当たり前のように、他の名もなき家具に混ざって、普通の張替工房にやってきます。

 

デンマーク人の知人が、実家の家具はほとんどウェグナーの家具だったと教えてくれて、私が驚くと、

 

昔は安かったからね。ただのウェグナーの家具よ。

と笑っていました。

 

それ言えるの、デンマーク人だけですよ。

と言うと、キョトンとした顔をされました。

 

デンマーク国外じゃ、「ただの」ウェグナーの家具じゃないからね!

と付け加えると、納得していました。

そう、デンマーク家具の巨匠、ハンス・J・ウェグナーのデザイン家具として、恭しく扱われるのです。

 

ティナの工房にやってくる家具の張替依頼の内容は、ざっくり以下の内容に分類出来るように思います。

 

1.公共施設(学校、協会、病院等)の老朽化によって張り替えが必要なもの。

2.個人客の乗り物(ボート、車、バイク等)の老朽化によって張り替えが必要なもの。

3.個人客の市場価値のある古い家具(デザイナー物)で張替が必要なもの。

4.個人客の思い入れがあって、長く大切に使いたいもの。



私は、お客さんの思い入れのある家具の張替が、やっぱりいいなと思います。

市場価値(デザイナーの有無)に関係なく、家族の思い出の詰まったもの、自分がずっと大切にしてきたもの、気に入っているものを、きちんとメンテナンスして長く使う文化は、すごくいいなと思います。

そして、そういったものの多くは、とても良質な家具なんです。

もちろん、デザイナー物の張替はテンションが上がりますけどね。

 

デンマークで暮らしていて良かったなと思うことの一つは、デンマークにはデザイナー家具以外にも、たくさんの名もなき名作家具がある、ということを知れたことです。

 本当に、良い素材で丁寧に美しく作られた家具がたくさんあるんです。

 

デンマークに来る前は、デザイナーの家具こそ価値ある家具、と思っていた節があったのですが、その考えはすっかり改めさせられました。

 

我が家の家具はデザイナー家具ではなく、夫の家族から引き継いだもの、ビンテージショップや近所のリサイクルショップで見つけたものばかりですが、どれも思い入れのあるお気に入りの家具たちです。

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夫のおじいちゃんにもらったチークのサイドボード

我が家のリビングにあるチークのサイドボードは、夫のおじいちゃんにいただいたものです。

おばあちゃん(おじいちゃんの奥さん)の嫁入り道具として、おばあちゃんのお父さんが贈ってくれた大切な家具だったのですが、新婚当時おじいちゃんが車の上にくくりつけて無理やり運んだものだから、カーブで家具が落下して壊れてしまい、修理にとてもお金がかかった、という思い出の家具です。

 

デザイナー物ではありませんが、とても可愛くて便利で、これからも大切に使わせていただく予定です。

 こんな風に家族の思い出の詰まった家具を引き継いでいくことに、私も関わることが出来て、とても嬉しいです。